謙さんのカムバックは、Hoon Leeの代役として舞台を立つという前代未聞のこととなった。
当時のチケットの売上は今ひとつ。結構割引チケットも出回っていたので、いち早く安いチケットをゲットし、久しぶりの謙さんの舞台を見ることとなった。
ロングランの公演はなかなかペースを維持するのが難しい。観客にとっては滅多に見ることのない異次元の世界への誘いだが、出演する俳優たちにとっては毎日の出来事である。いくら新鮮味を保とうと思っていても、習慣化されてしまい、モチベーションを維持するのは簡単ではない。そんな中、キャストも少し元気がなかったところに久しぶりに謙さんが入ってきたので、周りのキャストも活気づいていた。
そして、謙さんの登場。まず気がついたのは、今回は剃髪にせず、短髪を７：３に分けて登場。それも狙い目だったようで、どうしても「王様と私」というと、ユル・ブリナーのイメージが強い。そこで剃髪でイメージを彷彿しつつ、全く違う王様を試みた。しかし、半年を経てカムバックした今回は、また更に全く違う王様を目指していた。
そして、演技も今回は一味違う。まずはまたこの舞台に立てるのが楽しくて仕方ないのが伝わってくる。以前より演技が大きく、その存在感が舞台を支配しており、周りの俳優たちを喰ってしまう勢いだ。台詞回しも前よりスムーズで、ちゃんと練習してきたのが分かる。以前の自分の殻をも破ろうとしていた謙さんはさすが。客席も湧いていた。
そして、謙さんがカムバックする前に、アンナ先生役のケリー・オハラさんがオープニングから１年経つ４月１６日で舞台を去ることが発表され、その時に謙さんも一緒に去ることとなり、謙さんのカムバックは５週間ほどで終わった。それと共に、りんちゃんも最後をいつにするか考えるようになった。
夢はいつか覚める。
長い夢だった。全く舞台に立ったことのない９歳の少女がいきなりブロードウェイの舞台で２大スターと共演。普通では考えられない。そして３回のメジャーなテレビで生出演、コマーシャルとCD制作にも加わった。リンカーンセンターというブロードウェイの繁華街とは少し離れた芸術の一角が仕事場で、１年以上舞台に立ち続けた。毎日学校に通いながら。そして、公演がいつ終わるかのメドが立たない今、自分で終わりを決めるしかなかった。本人も十分やった感があり、次に進みたいと思っていた。リンカーンセンター側に気持ちを伝え、２０１６年５月１日を最後の出演日にすることに決めた。
